(1)門司港レトロのまちづくりについて(北九州市)
門司港レトロ整備から30年の歩みと展望についてヒアリングをした。
門司港は、漁村と塩づくりの小さな
村から始まり、日本を代表する国際貿易港として発展したが、関門海峡の開通など新たな交通インフラの整備により、港としての役割を喪失した歴史がある。
その活性化のために「レトロ計画」が立ち上がったが、港を活用した観光地の整備か、港の埋立・売却かの相反する2つの再開発案および財政状況のひっ迫といった大きな課題があった。「衰退する門司港の活性化」という基本理念は一致し、国からの補助金により危機回避となった。
第1期計画は、1988年から1994年の事業期間で約295億円の事業費(公共事業費)を費やした。事業内容は、旧大阪商船、旧門司三井倶楽部、旧門司税関などの「歴史的建造物の保存活用、展望台などの「海峡巡り事業」、門司港駅前広場やはね橋といった整備からなり、1995年に門司港が「門司港レトロ」としてオープンした。観光客は107万人に上り、前年の観光客数25万人から大きく伸びた。一方、滞在時間が短い通過型であること、飲食物販施設の不足、駐車場やトイレの不足の課題が残った。
第2期計画は、1997年から2007年の事業期間で約268億円事業費(公共事業費:約125億円、民間事業費:約143億円)を費やした。事業内容は、レトロ展望台、関門ミュージアムなどの観光施設、駐車場やトイレ、遊歩道の整備、そして門司港ホテルなどの民間も含めた整備となった。結果、1997年に148万人であった観光客は、2007年に220万人になった。
この事業期間において、北九州市は民間と連携した取り組みを進めた。ハード面では門司港開発株式会社で、ソフト面では門司港レトロ倶楽部である。
門司港開発株式会社は、門司港ホテルと海峡プラザの施設管理を担い、地元住民・事業者、ボランティア団体、行政を構成メンバーとする門司港レトロ倶楽部は、イベントの開催、景観・環境づくりなどを担っている。ともに、「門司港レトロ」オープンの1995年に設立している。
その他、廃線となっていた貨物線の施設や鉄道車両をリユースして、門司港レトロ観光列車「潮風号」を2009年に開業したり、1914年開業の門司港駅をリノベーションし2019年にグランドオープンするなど鉄道事業者との連携も進んでいる。
30周年を迎える門司港レトロでは、関門ロケツーリズム、レトロ朝マルシェ、門司港ミューラルアートといいた「まちのエンタメ化」を取り入れ、活性化を図っている。
神戸市においても、旧居留地を彩るランドマークの一つ「商船三井ビルディング」が2027年6月末に閉館し、建物の存続を含めどうなるかが話題なり、門司港の取り組みに関心をひいた。
歴史的価値のある建物群を保存するための枠組みや活用方法が、オフィス街でも大きく利用されている旧居留地とは大きく異なることがわかったが、観光面での見せ方、市民団体等を巻き込む連携などを深化させ、市民の関心を高めることにより。古き良き街並みを未来志向で存続させための様々なヒントがあるように感じた。
(2)福岡県空き家活用サポートセンター(イエカツ)の取り組みについて
(福岡県住宅計画課)
福岡県の空き家対策についてヒアリングをした。
令和5年住宅・土地調査によると福岡県の空き家の総数は34万戸で、そのうち賃貸・売却用の住宅や別荘等の二次的な住宅が約21万戸、その他の住宅は約13万戸である。30年前平成5年の17.3万戸(その他の住宅は約5.7万戸)と比較して大きく増加しており、多分にもれず「空き家問題」という全国的な社会課題が存在する。
令和元年度まで、空き家専門相談支援事業(H28~H30)、住まいの健康診断(H23~)リノベーション補助金(H25~)、空き家活用モデル事業(H27~H29)、県版空き家バンク(H30~)の取り組みを行っていたが、空き家はH25からH30に約1.2万戸増加し、今後も増え続ける見込みがあった。
そこで、単発での対応ではなく、空き家の相談対応から、その活用・処分の具体的な提案、さらには専門事業者とのマッチングまで一連の対応をワンストップで提供する窓口が必要との判断になり、令和2年10月に福岡県空き家活用サポートセンター(イエカツ)が開設された。
空き家相談のワンストップ窓口である「イエカツ」は、①状況把握と基本情報の提供、②権利関係の整理と活用・処分方法の検討・提案、③専門事業者とのマッチングといった相談の流れである。
相談件数は累計2,434件(令和7年9月時点)で、売買・賃貸したい(69.8%)、どうしたらよいかわからない(57.6%)が多く(複数回答)、自分の問題を把握できていない相談者が多いとのことである。
次に、マッチングの実施状況は累計310件中、売却・賃貸(宅建業者)159件、市町村空き家バンク46件、相続(司法書士)と家財整理(家財整理業者)がともの31件といった順になっている。
マッチング成立後もある期間に追跡調査すると、解決済み(70.1%)、売り出し中(18.6%)、未解決・不明(11.3%)となり、約7割が解決に至っている。
次に、令和5年度から。空き家対策に積極的に取り組む専門事業者を、福岡県空き家活用応援事業者(イエカツ応援団)として登録・公表され、令和6年度末にて284社が登録されている。イエカツ応援団は、ホームページで紹介され、自身で専門事業者を探すことも可能である。
県内市町村各地で出張相談会・セミナーを実施し、相談会後に相談解説や意見交換による研修も実施している。また、市町村からの依頼により、イエカツで売却シミュレーションを実施するなど協力体制も強化も図っている。
相談内容として、需要がある物件では、慣れない取引を一人で進めることへの不安、利害関係のない第三者に相談を希望するといった特徴がある。売却が難しい物件では、エリア特有の規制(市街化調整区域など)、売却が困難にする要因(未相続、借地や借家など)を含め、対応する業者を知りたい特徴がある。
長屋を、地域の新たな場として再生したいという相談があったが、1社とマッチングし美容室として再活用された。所有者・仲介業者・賃借人・地域にメリットのある結果となった。
イエカツの課題として、売却しようにも需要の少ない物件には仲介業者がつきづらいこと、活用しようにも事業者探しにおいて条件の整理・調整が難しいこと、空き家になる前の早めの対策があげられる。
各市長村により空き家率やその原因について様々であり、県全体としては地域差が出てしまう状況があるため、広域自治体である福岡県が窓口になり、運営することでその差を埋めることができる狙いがある。神戸市においても、空き家・空き地問題に関しては従前より取り組みが進んでいる認識であるが、エリアによる空き家の課題が異なることも考えられる。本市の取り組みを比較しながら、広報の仕方を含め考えていきたい。
(3)福岡MaaSの取り組みについて(福岡県企画・地域振興政策課)
福岡MaaSの取り組みについてヒアリングをした。
MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人の移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものとされている。(県HPより)
九州地域戦略会議が、次世代移動サービス「MaaS」を構築するための研究会を令和4年に発足させたことが、この事業実施に至った経緯である。
県全体で「MaaS」に取り組む必要性・方向性として、地域の限られた交通手段をどうつなげていくか、観光資源を活用し、移動需要をそう掘り起こしていくかなど、「共創」の考え方を踏まえ、行政、事業者等の関係者で知恵と費用を出し合い、持続可能な地域交通の実現、地域活性化を推進していくことがあげられる。以下、要点を示す。
〇全体像:オープンデータ化の推進などのデータ利活用、デジタル乗車券造成の補助、アプリ連携の補助などの「MaaS」導入支援、「MaaS」の広報・利用の実態調査の普及啓発を柱とした実装フェーズ(令和5年度から令和7年度)から、令和8年より実装フェーズへ移行する。
〇MaaS実証実験の具体的事例:糸島エリアではフリーパスやレンタルサイクル乗り捨てサービスなどを実施、有明エリアでは2DAYきっぷやグリーンスローモビリティ導入実証事業などを実施、基礎自治体独自のその他事業を含めて進められている。
〇MaaS実証実験のスキーム:実施主体である検討会議に対し、市町村は負担金として、県は補助金として事業費を負担し、交通・観光事業者は割引原資等の協力をするものである。導入支援のための補助制度も創設されている。
〇MaaSアプリ「my route」:「my route」はトヨタファイナンシャルサービスが開発・提供するスマホアプリである。地域の情報、地図(ルート)検索、おでかけサービス予約や利用ができる機能がある。利用状況は、ダウンロード数約143万件(全国9月時点)、月平均利用者約3.8万人(九州内4月~9月平均)、月間発売枚数約58000枚(九州内9月)。
〇データ利活用:データに基づく現状把握・課題分析と交通施策・事業の改善による地域交通の最適化を目的とし、これまでの成果や知見を課題を踏まえつつ、「データ分析の多様化・高度化」「データの取り扱いに関する考え方やルールの整理」「官民共創による広域的な施策の検討」といった令和6年度事業の手法を踏襲して取り組みを進展する。
〇データ利活用(エリア内交通動態分析):AIオンデマンド交通「のるーと」が導入されているが、町内運行に限られている。県データ利活用事業として、広域連携を図ることにより、利便性の向上が図れる可能性がある。併せて、交通情報のオープンデータ化を図り、バスロケーションシステムとして活用できている。
〇MaaS普及啓発:福岡県MaaS特設サイトの運営、SNS・WEB広告の配信、チラシ・ポスターの製作、マスメディアの活用などを行っている。
〇MaaS普及啓発:福岡県MaaS特設サイトの運営、SNS・WEB広告の配信、チラシ・ポスターの製作、マスメディアの活用などを行っている。
〇その他:コミバス等の回数券・定期券のデジタル化、鉄道やバスとコミバス等との乗車券造成、電動キックボードなどのパーソナルモビリティ等と連携が図られている。
以上、福岡交通MaaSに関しての要約であるが、広域自治体として公共交通をリ・デザインする使命において、交通DXの可能性が伝わった。神戸市においては観光系のデジタルチケットはあるが、日常の足としての交通をどうやってDX化するか、兵庫県を巻き込んだ議論と施策が必要と感じた。
神戸市では地域主体で地域公共交通の導入を進めているのに対し、福岡県などはAIオンデマンド交通「のるーと」を自治体が率先して導入しているのが大きく違う。それぞれの利点・欠点もあるが、県企画・地域振興政策課の担当とこの点で議論できた。













